大学紹介

全国の院内トリアージの取り組みの現状とアンダートリアージの発生率について

更新日:2020年4月1日 ページ番号:0000499

基礎看護学研究室 石丸智子

はじめに

 トリアージとは、「傷病者など治療を受ける必要性のある人々の、診察や看護を受ける順番などを決定する診療前の一つの過程」と定義され、緊急度の判断を中心に最大限の医療効果を上げるための技術であり、システムです。近年、多数の救急外来受診患者のうち救急医療を真に必要とする患者に迅速な医療を提供するため、これまでの「先着順の医療」ではなく、来院早期に患者の緊急度を判断し、治療の優先順位を決定する「院内トリアージ」が注目されるようになってきました。院内トリアージにより急を要する患者へ早期介入が可能となり、患者の救命率が向上することにつながるため、その有用性が期待されています(島尻ら2013・江辺ら2014)。
 院内トリアージを行う際の判断基準の指標として、1990年代よりカナダでは救急外来での救急外来患者緊急度判定システム・CTAS(Canadian Triage & Acuity Scale)が、アメリカではESI(Emergency Severity Index)が開発・運用されています。また、院内トリアージによる判定の結果が、実際の病状と合致したものであったかを評価する事後検証が、その質の向上のために必要不可欠であるとされています。特に優先順位をつける際に実際の症状よりも軽症として判定を低くしてしまうアンダートリアージは、患者の予後を左右するため、その発生を減少させることが重要であると考えられ、A.Mirhaghら(2015)が行った調査では、アンダートリアージ率はESI:10.93%、CTAS:17.3%であることが明らかにされています。
 そこで、本研究では全国の救急外来における院内トリアージの取り組みの現状とアンダートリアージの発生頻度およびその要因について明らかにすることを目的とし、全国の救急認定看護師が所属する573病院を対象に質問紙調査を行いました。

方法

1)調査対象

 全国の救急看護認定看護師が所属する573病院

2)調査期間

 平成28年8月1日~9月31日

3)調査方法・内容

 自記式質問紙を用い、対象者・施設の属性(2項目)、院内トリアージの実施状況(5項目)、トリアージナースの養成(5項目)、事後検証の方法(9項目)、院内トリアージの精度(5項目)、自由記述(2項目)の計28項目を質問しました。

4)分析方法

 救急体制ごとの院内トリアージの現状について、単純集計をおこないました。

5)倫理的配慮

 対象者に、研究の目的、方法、個人情報の扱い、参加への自由意思、拒否した時の不利益はないこと、業務とは無関係であることを書面で説明し、回答をもって同意としました。本研究は、研究者所属施設の研究倫理安全委員会(承認番号No.16-23)の了承を得て行いました。

結果

1)対象者の特性

 573施設中185施設の回答(回収率32.3%)がありました。無回答を除き、有効回答179施設、有効回答率32.2%でした。そのうち、二次救急体制94施設(52.5%)、全次救急体制49施設(27.4%)、三次救急体制36施設(20.1%)でした。

2)院内トリアージ実施施設の特性

 院内トリアージ実施「有」と答えたのは、全179施設中、137施設(76.5%)であり、実施「無」と答えたのは、42施設(23.5%)でした。また、救急体制毎に集計を行ったところ、二次救急体制68施設(49.6%)、三次救急体制23施設(16.8%)、全次救急体制46施設(33.6%)でした(表1)。
 実施「有」の施設のうち、院内トリアージシステムを使用している施設は、136施設(99.3%)で、使用していない1施設(0.7%)でした。使用している院内トリアージシステムは、JTASを使用している施設が87施設(63.5%)と最も多く、JTAS以外のシステムを使用している施設が50施設(36.5%)でした(表1)。

3)事後検証に関して

(1)院内トリアージ実施施設における事後検証実施

 院内トリアージ実施「有」施設における院内トリアージの事後検証「有」が96施設(70.0%)、「無」が41施設(30.0%)でした(表1)。

(2)事後検証の方法

 事後検証の「参加者」は、実施した看護師と認定看護師37件(48.0%)、実施した看護師と医者18件(23.4%)、実施した看護師のみ9件(11.7%)、その他13件(16.9%)でした。
 事後検証の「方法」は、問題症例のみ抽出し検討会という形をとっている50件(56.8%)、全ての患者にトリアージ結果と経過を検証する13件(14.8%)、どちらの方法も取り入れている14件(15.9%)、その他11件(12.5%)でした。
 事後検証の「頻度」は、1ヵ月に1回以上36件(39.5%)、1か月に1回未満年に1回以上23件(25.3%)、不定期18件(19.8%)、その他14件(15.4%)でした。
 事後検証の「客観性を保つ方法」は、JTASのガイドライン使用67件(45.9%)、医師を含めた他職種で実施47件(32.2%)、自施設独自のガイドライン使用25件(17.1%)、その他7件(4.8%)でした。

4)アンダートリアージ率と診断された患者の主訴

 本研究では全体のアンダートリアージ率は3.1%であった。さらに、JTASを使用している施設のアンダートリアージ率は2.6%、JTAS以外のシステムを使用している施設のアンダートリアージ率は4.2%でした。回答のあった病院で発生したアンダートリアージは全723件で、それを患者の主訴別に分類すると、「消化器系」152件(21.0%)、「神経系」74件(10.2%)、「呼吸器系」70件(9.7%)、「心血管系」63件(8.7%)、「外傷」59件(8.2%)、の順で多くなりました(図1)。

アンダートリアージ率と診断された患者の主訴の画像1

アンダートリアージ率と診断された患者の主訴の画像2

考察

1)救急体制毎の院内トリアージの取り組みの現状

 先行研究(島尻2013)では、救急外来トリアージの実施は全158施設中、79施設(50%)であったが、本研究では、院内トリアージ実施「有」施設は、76.5%と増加していました。
 また、「有」施設のうち、本研究では、院内トリアージシステムを使用している施設は99.3%であり、院内トリアージシステムを活用している施設が増加していました。救急外来では、医療の需要が供給を上回る状況が多々存在しており、看護師によるトリアージが注目されている現状があります(上野ら2009)。また、平成22年度の小児救急外来における院内トリアージ加算や平成24年度の院内トリアージ実施料の診療報酬へ導入の影響など診療報酬改定による法整備の影響により、院内トリアージシステムの普及は必然であり、同時に日本救急医学会や日本救急看護学会では、JTASの教育プログラムが定期的に開催されていることが、JTASを採用する施設の増加の要因であると考えられます。

2)事後検証に関して

(1)院内トリアージ実施施設における事後検証実施

 先行研究では、事後評価システム「有」施設は全79施設中、30施設(38%)であり、トリアージシステムの質向上のための大きな課題とされていました(島尻ら2013)。本研究では、院内トリアージ実施「有」施設における院内トリアージの事後検証「有」施設は、70.0%と増加していました。平成24年度の診療報酬改定で院内トリアージの実施基準を定め、定期的な見直しが要件として加えられたため、その重要性を意識し事後検証を取り入れる施設が増えたのではないかと考えられます。

(2)事後検証の方法

 「参加者」は、実施した看護師と認定看護師か、実施した看護師と医者で行っている施設が多く、事後検証の「方法」として、全ての患者にトリアージ結果と経過を検証するやどちらの方法も取り入れている施設は、全体の30.7%にとどまりました。「頻度」は1ヵ月に1回以上39.5%、1か月に1回未満年に1回以上25.3%、不定期19.8%となっていた。
 平成24年度の診療報酬改定の加算条件では、事後検証を行うことを推奨してはいるものの、具体的にその方法や頻度などは決められていません。そのため、それぞれの施設ごとに異なっています。院内トリアージの質を向上するためには事後検証は必須であり、施設間の比較や年次比較のためには、今後は方法や頻度など同じ方法で行うことが期待されます。

(3)アンダートリアージについて

 アンダートリアージと診断された患者の主訴は、「消化器系」が21.0%と特に高くなりました。腹痛を引き起こす疾患は非常に多数あり、アセスメントの段階で病態を絞りすぎてしまうと診断を誤る危険性があることが考えられます。また、消化器系疾患の主な症状である「嘔気・嘔吐」では、消化器疾患だけではなく中枢神経系など他の部位の障害によっても起こる可能性がありながらも、多くの場合、緊急の治療を要さない、いわゆる胃腸炎であることが多く、嘔吐のみで重症度の判断を行うことは困難である(道又他2016)ため、見逃されやすいと考えられます。

結語

 全国の院内トリアージの取り組みの現状は、先行研究と比較すると、院内トリアージ実施率やJTAS採用率は増加傾向がみられました。アンダートリアージの判定の減少や発生要因として、JTAS採用は影響しないことが示唆されました。しかし、JTASを採用しない場合は、JTASの代わりとして院内トリアージのシステムを整える必要があります。また、アンダートリアージに繋がりやすい「消化器系」の主訴に注意し、院内トリアージナースが、アセスメント能力を高める必要があります。
 今後の課題として、今回は回収率が32.2%と低く、調査の結果は必ずしも対象施設全体の状況を反映しているわけではありません。また、郵送による質問紙調査のため、質問の意図が十分に伝わらない可能性や、選択肢の不足により、現状が反映されていない可能性も考えられます。特に、アンダートリアージについては、施設ごとに全件事後検証を行うことで、より精度の高い検証を行うことができると考えます。

 本研究は基礎看護学研究室の卒論生と教員が共同で行った卒業研究の一部です。第12回医療の質・安全学会学術集会(2017,東京)で発表しました。

引用文献

江辺有加里、冨山洋子(2014)・救急外来における院内トリアージの検証と今後の課題・多根医誌第3巻、第1号、p.71-77

道又元裕 他 編(2016) 院内トリアージ 優しく理解する思考過程 日総研 p.13-20,105-111

Amir Mirhagh、Abbas Heydari、Reza Mazlom eds.(2015)・The Reliability of the Canadian Triage and Acuity Scale: Meta-analysis・North American Journal medical sciences July p.299-305

島尻史子、岡本健、西村あをい 他(2013)・救急外来トリアージの質を向上するための課題 アンケート調査結果の分析・日本臨床救急医学会学会誌、16(6)p.802-809

上野幸廣、河野元嗣、木澤晃代 他(2009)・看護師による救急外来でのトリアージシステムの質に関する検討・日救急医会誌 20巻 p.116-125

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