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放射線照射によるマウス急性骨髄性白血病の起因となる遺伝子欠失の経時的変化

更新日:2019年9月3日 ページ番号:0000490

環境保健学研究室 恵谷玲央

はじめに

 急性骨髄性白血病(AML)は放射線によりヒトに誘発される代表的ながんの一つです。放射線誘発急性骨髄性白血病(rAML)好発系のC3H系と言われるマウスに放射線を照射すると、照射線量に比例してrAMLが発症することが知られています。また、rAMLを発症したマウスの造血幹細胞の2番染色体上には、造血系細胞転写制御因子であるSfpi1遺伝子領域に片側欠失が高頻度で観察されることが報告されています[1,2]。Sfpi1遺伝子欠失が生じ、残存するもう一方のSfpi1遺伝子座へ点突然変異が誘発された場合に、分化異常によって造血系細胞は白血病幹細胞化する可能性があります。
 私たちは放射線による健康リスク解明に資するために研究を進めてきました。私たちはこれまでに、C3Hマウスの骨髄中の造血系細胞を用いた実験によって、rAML発症に寄与するSfpi1遺伝子を欠失した細胞が細胞動態によって除去され、rAML発症が線量・線量率に依存する可能性を明らかにしてきました。しかし、放射線による白血病発生機構については未だ不明な部分が多くあります。本研究では、放射線全身照射によって誘発されるSfpi1遺伝子欠失の経時変化について、造血組織による差異を比較しました。ここでは、その結果の一部を紹介します。

研究方法

 8週齡のC3H/HeNJcl雄性マウスにrAMLを誘発する至適線量である3Gy(1Gy/min)を全身急性照射(IR)しました。照射から1,4,8,26週間後に、造血組織(大腿骨骨髄、脾臓)からそれぞれ磁気ビーズ法により造血系細胞(Lin-/Sca1+/CD34-)を分離し[3]、FISH法を用いてSfpi1遺伝子欠失頻度の継時変化を非照射群(コントロール群)と比較しました。Sfpi1遺伝子欠失頻度は分離した造血系細胞の中でSfpi1遺伝子の片側欠失を有する細胞の割合を示しています。Sfpi1遺伝子欠失の解析には、弘前大学被ばく医療総合研究所に設置されている自動コメットアッセイ解析・mFISH/mBAND解析システムを使用しました。

結果・考察

 まず造血系細胞数について検討しました。大腿骨骨髄中の造血系細胞数は3Gy照射後早期(照射後1週目)に増加し、その後26周目にかけてコントロールレベルまで減少を示しました。放射線照射によって低下したマウス造血系を再構築するために、造血系細胞に一過的な増殖、分化が起きたためだと考えられます。一方で、脾臓中の造血系細胞数は照射後1周目から26周目にかけて緩やかに上昇傾向を示しました。放射線照射や造血ストレスによって、造血系細胞が骨髄から脾臓に移動し、髄外造血が誘導されたのではないと考えられました。
 次にSfpi1遺伝子欠失頻度は、3Gy照射後早期(照射後1週目)に、大腿骨骨髄・脾臓において増加しました。大腿骨骨髄中で増加したSfpi1遺伝子欠失は、照射後4週目から26週目にかけて緩やかに減少を示しましたが、脾臓におけるSfpi1遺伝子欠失は26週目でも高値を維持しており、大腿骨とは異なる細胞動態を示したことがわかります。これらのことから骨髄から脾臓へSfpi1遺伝子を欠失した細胞も含めた造血系細胞が流入し、脾臓においてはSfpi1遺伝子欠失を持った造血系細胞が長期的に維持されることが示唆されました。Uptonらは事前の脾摘出によってrAML発症が抑制されることを報告しており[4]、脾臓は大腿骨骨髄と同様にrAML発症の重要な場の一つである可能性があります。今後は線量や照射条件を変え、詳細な検討を行っていきたいと考えています。

謝辞

 本研究は放射性物質環境動態・環境および生物への影響に関する学際共同研究(採択No. HY-18-5)の支援により得られた成果の一部である。本研究に対しご協力いただいた皆様にこの場をおかりして御礼申し上げます。

参考文献

  1.  Rithidech KN et al. A specific chromosomal deletion in murine leukemic cells induced by radiation with different qualities, Experimental Hematology. 1993; 21: 427-431.
  2. Verbiest T et al. PU.1 downregulation in murine radiation-induced acute myeloid leukaemia(AML); from molecular mechanism to human AML. Carcinogenesis, 2015; 36: 413-419.
  3. Shao Let al. Hematopoietic stem cell injury induced by ionizing radiation.Antioxid Redox Signal. 2014; 20: 1447-1462.
  4. Upton AC et al. A comparison of the induction of myeloid and lymphoid leukemias in X-radiated RF mice. Cancer Research. 1958; 18: 842-848.

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