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日本で出産を経験した在日中国人母親の産後ケアニーズに関する検討

更新日:2021年11月1日 ページ番号:0004246

国際看護学研究室 丸山加菜<外部リンク>

はじめに

 社会や経済のグローバル化が進み、日本における在留外国人数は増加傾向にあります。新型コロナの影響により、2012年以来8年ぶりに減少したものの、2020年6月末における在留外国人数は約288万人となりました。そのうち、中国籍の外国人登録者数が約77万8千人(27.0%)と最多になっています(法務省出入国在留管理庁)。中国籍の在留外国人の年齢は、20~40歳代に集中しており、妊娠・出産・育児等の生殖活動の活発な時期であるため、周産期現場において中国人女性を看護する機会が増加していると考えられます。妊産婦が経験する妊娠・分娩・育児は、個人の文化的背景の影響を強く受けると言われており(川崎2014)、母国とは異なる文化圏で出産や育児を行う女性に対し産後ケアを行うためには、医療職者が国や地域ごとの異なるニーズを理解しておくことが重要と考えられます。そこで、今回の研究では、日本の病院で出産を経験した在日中国人母親の、病院や地域で受けたケアや支援について明らかにしたうえで、どのような産後ケアニーズがあるのか検討することを目的としました。

方法

2018年7~9月、日本の病院で過去10年以内に出産した在日中国人母親5名を対象に、半構造化面接調査を行いました。録音データから逐語録を作成し、出産および産後の状況、支援状況に関する内容を抽出し、質的帰納的に分析しました。

結果

 対象者の平均年齢は37.2歳(32-48歳)でした。日本語能力は、5名全員が日常会話以上でした。聞き取った内容を分析した結果、7個の【カテゴリー】、29個の〈サブカテゴリ―〉、95個の「コード」、が抽出されました。表1に結果を示します。
 【日本での出産に対する高い満足度】では、「患者に対して医療職者はプロ意識があると感じた」と述べており、〈日本の乳房ケアの手厚さ〉や〈育児技術や産後の母子の経過に関する丁寧な指導〉により、〈日本の医療職者や病院に対する安心感・心強さ〉を感じたことで、〈日本の医療職者や病院に対する高い評価〉へと繋がっていました。
 【育児中のサポート】では、中国から褥婦の母親が来日し、〈実母や義父母からのサポート〉や〈夫からのサポート〉など、家族によるサポートを受けていました。〈医師や医療施設が頼りになる存在〉であり、産後訪問や地域の支援センターの利用といった、〈フォーマルなサポート〉も見られました。また、日本に暮らす友人や親せきだけでなく、「SNSを通じて母国の友人や親せきに相談できる」ことから、何らかの〈相談相手の存在〉がありました。
 【日本と中国の産後に関する習慣・認識の相違】では、「中国には昔ながらの子育てや褥婦に関するきまりがある」ことで、〈中国では冷たいものが禁忌〉であり、〈中国には褥婦や子の世話をする職業が存在〉することや「中国では昔ながら、家族が全員で褥婦や子の世話をするのが当たり前」といった〈日本と中国の産後・子育てに関する認識の相違〉から、〈日本と中国での産後の習慣の違いによる悩み〉を感じていました。
 【出産・育児に関する困難】では、〈母乳に関する困難〉〈子の夜泣きや皮膚トラブルに関する困難〉〈褥婦の睡眠に関する困難〉〈分娩時や育児技術のイメージのしづらさ〉といった、日本人母親も感じるような悩みについて述べていました。
 【母国を離れて日本で育児をすることの不自由さ】では、「外国人にとって1番の弱点は情報弱者であること」から、〈育児情報に関するアクセスの壁〉があり、「交通手段がなく、すぐ病院に行くことができない」ことでの〈医療機関へのアクセスの壁〉も生じていました。「親族以外の相談相手はいない」ことで「日本人の母親と友達になる機会がなく残念だった」と感じた母親もおり、さらに「個別の相談コーナーにはいかない」状況から〈地域や日本人との関係性の希薄さ〉がみられました。
 【コミュニケーションの現状】では、〈日本語の理解度の高さ〉があり、〈非言語的コミュニケーションの活用〉をすることで〈中程度の理解度〉はありました。しかし、医療用語や細かい内容になると〈意思疎通できているのか不安〉と述べていました。
 【日本の医療職者の課題】では、〈日本の医療職者の外国人も日本と同じ常識をもっているという思い込み〉があることや、「助産師が病室を回る回数が少なく感じた」ことでの〈日本の医療職者に対する不満〉を述べていました。

在日中国人母親の日本での出産および産後の状況、支援状況

考察

 在日中国人母親は、日本での出産に高い満足度を得ていた一方、日本の医療職者が中国人母親に対して、「日本人にする説明を外国人にもしてしまう」と感じ、相手が外国人であるということや、出産・育児文化に違いがあることに対する認識の薄さを指摘していました。中国には、産後1か月間、栄養価の高いものを食べ、安静を保ち養生する坐月子(ツオユエツ)という習慣があり、塩分や刺激のあるもの、冷たいもの、体を冷やすことは禁忌で、体を動かすこと、子どもの世話までも禁じられています(姚毅2011)。そのような文化的背景を考慮しながら、医療職者のケアの意図や提供する情報の詳細を確実に理解できているかどうか随時確認していく必要があり、表面上はやりとりが成立しているようにみえる場合も、コミュニケーションにおけるより細やかな配慮が求められています。
 中国では、家族で問題解決をする文化的背景があることから、「個別の相談には行かない」といった行政の支援を受けない母親がいた一方で、地域との繋がりや日本人との関係の希薄さに対して、日本人母親と交流する場に対するニーズが明らかになりました。今回の対象者である中国人母親は、日本人母親との交流を通して、さらなる異文化への適応と育児への適応を求めていることが示唆されました。加えて、今回、調査を実施した地域は中国人母親が少ないため、居住地域での同胞の母親との交流が難しい状況にあり、日本人母親との交流に対するニーズが高まったと考えられます。日本で実施されている母子保健事業では、地域の親同士の仲間づくりを促すことも目的としていますが、中国と日本の母子保健システムは異なるため、中国人母親が母子保健サービスや地域資源についての情報を得ても利用できるとの認識に至らない(川崎ら2012)ことが指摘されています。情報へのアクセスの壁が生じやすい立場にある中国人母親に対し、産前・産後を通じて、繰り返し情報提供を行い、中国人母親が保健サービスを享受する権利があると理解できるよう支援する必要があると考えられます。

謝辞

 調査にご協力いただきました中国人母親の皆様に、深く感謝申し上げます。
 本研究は、国際看護学研究室の卒論生である仲野水稀さんと教員が共同で行った研究の一部を紹介したものです。また、第60回日本母性衛生学会学術集会で発表されました。

引用文献

法務省. (2019).在留外国人統計(旧登録外国人統計)統計表. 
Retrieved from http://www.moj.go.jp/housei/toukei/toukei_ichiran_touroku.html<外部リンク>
川崎千恵(2014).在日外国人女性(Immigrant women)の出産・育児経験と支援ニーズに関する文献レビュー.日本地域看護学会誌, 16(3),90-97.
姚毅(2011).産後の養生「坐月子」―中国:松岡悦子,小浜正子編.世界の出産―儀礼から先端医療まで(pp.293-298).東京:勉誠出版.
川崎千恵,麻原きよみ(2012).在日中国人女性の異文化における育児経験―困難と対処のプロセス―.日本看護科学会誌, 32(4),52-62.

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