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転倒転落リスク場面における看護師と看護学生の注視時間とアセスメントの特徴-眼球運動測定器とインタビューより-

更新日:2021年9月6日 ページ番号:0004107

看護アセスメント学研究室 山田 貴子<外部リンク>

はじめに

 厚生労働省のヒヤリ・ハット事例収集・分析の結果では、総件数33,180件のうち看護師が関与している事例が26,310件と、最も多い。その中でも転倒転落に関する事例は多く取り上げられています。また、看護学生が実習中に最も起こす確率の高いヒヤリ・ハットは転倒転落であり、原因は状態の観察不足であると報告されています(江口2009)。観察はヒトの感覚器系の働きを活用して行われており、五感を用いた情報収集の中でも視覚は観察において重要な感覚です。眼球運動測定器を用いることにより視覚からの情報を可視化し、客観的に評価することができると考えました。さらに、インタビューを実施することで、転倒転落リスク場面に遭遇した際の危険予測やアセスメントを言語化し分析することができると考えました。
 そこで本研究では、転倒転落リスク場面での看護師と看護学生の注視時間とアセスメントの特徴を明らかにすることを目的としました。

研究方法

1)対象者:
5年以上の臨床実務経験のある看護師と全ての実習を終了したA看護系大学4年次生

2)データ収集方法:
①事例概要の説明
<事例概要> 75歳、女性、A氏。脳梗塞を発症し、血栓溶解療法の点滴を留置している。注意障害、左半身麻痺がある。移動時はナースコールを押すように説明しているが、A氏はベッドから一人で降り移動しようとしている。事例概要を説明後、スクリーンに提示する静止画像を観て、「自分が訪室したつもりになって、いつものように観察してください。」と依頼
②眼球運動測定装置(TalkEye Lite,竹井機器工業株式会社)の装着:視覚データ
③静止画像(図1)の観察(提示時間:30秒間)

静止画像

④インタビュー調査
「注意した箇所とアセスメント内容」「どのような危険や問題を予測したか」など

3)分析方法:
①視覚データ
・視点が停留している状態である「注視」の定義を100msec以上とした。
・転倒転落リスクを設定した「①患者」「②オーバーテーブル」「③車椅子」「④ベッドストッパー」の4領域を設定
・看護師と看護学生の2群間比較:①~④の総注視時間の抽出
・Mann-WhitneyのU検定(有意水準:5%)の実施
②インタビュー内容
逐語録作成後、2群間で有意差があった「①患者」のアセスメント内容を比較

4)倫理的配慮
本研究は、研究者所属施設研究倫理・安全委員会の承認を得て実施しました。

結果

 対象者は、看護師7名(女性4名、男性3名)、4年次の看護学生7名(全員女性)でした。看護師の臨床経験年数は平均15.6年(6-24年)でした。4領域の総注視時間を2群間で比較し、「患者」領域は看護師のほうが有意に長かったです(p<.03)。その他の3領域は有意差はありませんでした(表1)(図2)。

観察領域の総注視時間

看護師と看護学生の注視ヒートマップ

 有意差があった「患者」のアセスメント内容を比較した結果、看護師は「患者は血栓溶解療法中の為、転倒し頭を打ったら脳出血を起こす可能性がある。75歳なので骨折し易く深刻化し易い」など事前情報から予測される問題や、「左側の物を取る場合、患者が左に重心をずらし、その後右に重心を戻せなかった時に転倒し易い」など視覚で得た情報から患者の行動を予測し、危険予測していました。学生は「何がしたくてこの状況なのか」など患者の状況を疑問視した内容や、「お茶が零れた所を掴んでいて手が滑って転倒する」など視覚で得た情報をアセスメントした内容でした(表2)。

「患者」のアセスメント内容

考察

 看護師の特徴は、事前の提示情報から患者への観察意図を持ち、患者に焦点を絞り観察していました。アセスメント内容は患者の年齢や疾患から考えられる問題を予測し、視覚で得た情報を更にアセスメントし危険を予測していました。学生の特徴は、焦点を絞らず散在した観察をしていました。アセスメント内容は目に観えた情報からアセスメントし危険を予測していました。

謝辞

 本研究は、本研究室の卒論生とともに行った研究の一部を紹介したものです。本研究の調査にあたり、快くにご協力いただきました協力者の皆様に心から感謝申し上げます。

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