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A原子力発電所UPZ内で働く市町村職員の不安に影響する要因

更新日:2021年6月28日 ページ番号:0003829

成人・老年看護学研究室 堀 裕子<外部リンク>

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災に伴って発生した東京電力福島第一原子力発電所事故は、放射性物質拡散により、周辺地域に甚大な影響をもたらしました。この事故を契機に、日本の原子力発電所に対する安全性が問題となり、2013年に新規制基準が制定され、緊急時防護措置準備区域(UPZ:Urgent Protective Action Planning Zone)内(以下、UPZ)の市町村では、原子力防災計画の策定及び原子力防災訓練の実施が行われています。また、安定ヨウ素剤の準備、災害時の服用の指示も市町村が対応することとなっています。
 このような中、住民でもあるA原子力発電所UPZ内の市町村職員に対して、放射線知識や職員として勤務することでの不安等について調査し、不安に影響する因子を明らかにし、リスクコミュニケーションの一助となることを研究目的としました。

方法

  1. 対象者:A原子力発電所UPZ内の4市町村職員1558名
  2. 調査方法:自己記入式質問紙調査(市内便・郵送法)
  3. 調査期間:2015年9月1日〜30日
  4. 調査内容:個人や勤務関する項目、放射線に関連する不安(4件法)等
  5. 分析方法:UPZ内で勤務する事による不安の有無を「あり群」「なし群」の2群に分けて、各項目のχ二乗検定を行いロジスティク回帰分析後、関連する因子を特定した。

結果

1. 調査票回収の結果
 A原子力発電所UPZ内の4市町村職員1268名分が回収され、有効回答は1181名で有効回収率は75.8%でした。

2. 分析の結果
 A原子力発電所UPZ内で勤務していることで不安あり640名(54.2%)、不安なし541名(45.8%)でした。

原子炉勤務の不安の有無
原子炉勤務の不安の有無と独立因子

考察

 A原子力発電所UPZ内で働く市町村職員の不安に関連する要因として、「女性であること」、「職員として21年以上働いていること」、「原子力防災訓練に参加していないこと」、「放射線防護の3原則を知らないこと」が明らかとなりました。特に「女性であること」は、妊娠、出産、子育てといった母性要因が大きく関わっていると考えます。看護師を対象にした放射線不安の先行研究においても、未就学児との同居や、将来の放射線による子どもへの健康影響と不安が関連していました(Sato et al 2015)。次に、「職員として21年以上働いていること」は、ベテランや管理職の方が不安が大きいことを示しています。しかし、保健師を対象とした放射線不安の先行研究では、若い保健師や在職期間の短い保健師と不安が関連しており、放射線とストレスの先行研究では、看護師の在職期間での有意差はみられませんでした(Yoshida et al 2016)。このように一貫性のない結果は、職業や原子力災害に係る職場での責任感、放射線理解の違いといった対象者の特性によると考えられます。最後に「原子力防災訓練に参加していないこと」、「放射線防護の3原則を知らないこと」は、放射線の知識を得る機会の少なさを示しています。事故調査検証委員会の最終報告書の中で、多くの国民が放射線の影響に対して不安を抱いた一因として、「放射線の科学的性質やその人体への影響について学ぶ機会が十分とは言い難い事情がある」を挙げており、広く国民が放射線について学ぶ機会の必要性を指摘していました。以後、放射線教育体制は改正され、2012年発行の中学校理科では30年ぶりに放射線について取り扱われるようになり、看護基礎教育においても、放射線の医療利用による人間の反応の項目において、健康への影響・リスクを学べるように2022年カリキュラムから必修化されました。また、専門職として牽引役となる一部の行政職員や医療職を対象にした放射線災害に対応できる人材育成プログラムも実施されています。しかし、一般の市町村職員まで放射線基礎知識が普及していくのは時間熟成が必要です。このことから、放射線の専門家と市町村職員とが常時協力することが望ましく、市町村職員の放射線不安の特徴を踏まえた上で、日頃より顔が見える関係作りを構築し、あらゆる原子力災害を想定した訓練や、放射線に関する正しい知識の教育プログラムの構築をする必要があると考えます。

参考文献

Sato S, Hayashida N, Takamura N, et al: Factors associated with nurses’ intention to leave their jobs after the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant Accident. PLOS ONE|DOI:10.1371/journal.0122389 March 27,2015

Yoshida K, Orita M, Takamura N, et al. Radiation-related anxiety among public health nurses in the Fukushima Prefecture after the accident at the Fukushima Daiichi Nuclear Power Station: a cross-sectional study. BMJ Open 2016; 6:e013564. doi:10.1136/bmjopen-2016-013564

※本研究は、PLoS ONE 15(8): e0236997. https://doi.org/10.1371/journal.pone.0236997に掲載されており、上記はその一部を抜粋したものです。

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