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X線マイクロビームを用いた不均一な放射線照射による細胞集団の応答~内部被ばくの健康影響を考えるための生物基礎実験~

更新日:2021年5月7日 ページ番号:0003704

環境保健学研究室 小嶋 光明<外部リンク>

はじめに

 2011年3月11日の東日本大震災で起きた福島第一原発事故により、大気中に放射性セシウム(Cs-137)が放出されました。Cs-137 は半減期が 30 年と長く、土壌や粉じん等に吸着した状態で存在しています。食べ物や呼吸を通して体内に取り込まれると、肺に不均一に沈着し、内部被ばく(不均一な被ばく)を起こします。現在、内部被ばくの健康影響は同じ臓器・組織平均線量であるならば、外部被ばく(均一な被ばく)と違いはないと仮定されています1(図1)。

内部被ばくと外部被ばく

 1993年に Hopewell らは、β線を線量と照射面積を変えてブタの皮膚に照射し、皮膚障害(湿性落屑)の発生率を解析しました。その結果、同じ線量であっても、照射面積が大きいほど皮膚障害の発生率が高くなることを報告しました2。この現象は面積効果と呼ばれ、皮膚障害は細胞組織が単純な線量の総計に比例するわけではなく、照射面積や容積に依存することを示しています。面積効果の存在は内部被ばくの健康影響を考える上で非常に重要です。しかし、生物学的なメカニズムは明らかにされていません。
 そこで、本研究では組織・臓器内の不圴一な被ばくの生物影響を明らかにするための一環として、X線マイクロビーム照射装置(細胞一個レベルから狙い撃ちが可能)を用いて、模擬細胞組織に照射面積を変えて同じ線量の放射線を照射し、照射面積の大小により細胞集団の応答に違いが生じるか否かを明らかにすることを目的としました。

方法

 ヒト正常線維芽細胞である MRC−5をカバーガラス上で培養し、約 5×104 個からなる模擬細胞組織を作成しました。その後、筑波の高エネルギー加速器研究機構にあるX線マイクロビーム照射装置(エネルギー:5.35keV、線量率:0.2Gy/s)を用いて、0.02 mm2、0.09 mm2、0.81 mm2、1.89 mm2の面積に 1GyのX線をそれぞれ照射しました(図2)。
 照射後、1~24時間培養した後に細胞を固定し、照射野にある細胞1個あたりのDNA損傷数(53BP1フォーカスを指標)を解析しました(図3)。

照射面積と53BP1

結果・考察

 1 Gy のX線を照射し、1 ~ 24 時間後における DNA 損傷数を調べた結果を図4に示します。その結果、照射してから1)1時間後の DNA 損傷数は 0.09 ~ 0.81mm2 の間で照射面積に依存して増加していること、2)4 時間経過すると 0.09 mm2 以下と0.81 mm2 以上の照射面積で DNA 損傷数に変化が見られなくなること、3)24 時間経過しても1.89mm2 では DNA 損傷数が残存していることがそれぞれ分かりました。

面積効果の結果

 これらの結果は、同じ線量の放射線であっても照射面積がある一定以下では、初期に生じる DNA 損傷数が少なくなり、また、生じた DNA 損傷も速やかに修復されることを示しています。よって、放射線に対する細胞集団の応答は照射面積に依存して異なることがわかりました。この現象は、X線照射を受けた細胞と周囲の非照射の細胞との何らかの作用によって生じていると思われます。
 放射線照射を受けた細胞が非照射細胞と様々なコミュニケーションをしていることが近年明らかにされてきています。2011 年に Chen らは、非照射の NHLF 細胞(ヒト初代線維芽細胞)にX線を照射した HeLa 細胞(ヒト子宮頸癌細胞)を同じ培養液中で共存培養させると、X線を照射した側の細胞の生存率が改善されることを報告しています3。この現象は放射線誘発レスキュー効果と呼ばれています。照射面積が小さくなればなるほど照射細胞は非照射に囲まれます。本研究で見られたDNA損傷の面積依存性はレスキュー効果によるものかもしれません。
 本研究は生物影響と結びついた線量概念を考える上でも重要な課題でもあり、今後のさらなる研究が求められます。

参考文献

  1. Harrison, J.D. and Muirhead, C.R., Int J Radiat Biol. 79, 1-13, 2003.
  2. Hopewell J.W., et al., Radiat. Res., 133, 303–311, 1993.
  3. Chen S.J., Nucl. Sci. Technol., 48, 1129–1134, 2011.

おわりに

 本研究は、高エネルギー加速器研究機構物質構造科学研究所放射光共同利用実験で採択されたものです(Proposal numbers 2018G072 and 2019G030)。
 今回ご紹介した結果は、Scientific Report に掲載されております(Sci Rep. 2021 Mar 26;11(1):7001. doi: 10.1038/s41598-021-86416-7)。

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